PARASOPHIA 京都国際現代芸術祭2015 その2~京都芸術センター編~

PARASOPHIA
京都国際現代芸術祭2015
その2~京都芸術センター編~

会場:京都市美術館、京都文化博物館 別館、鴨川デルタ、堀川団地(上長者町棟)、京都芸術センター、河原町塩小路周辺、大垣書店烏丸三条店ショーウィンドー
会期:2015年3月7日~5月10日

京都市が運営しているアートフェスティバル。
京都芸術センターという元小学校を利用した芸術施設での展示を見てきました。
こちらの会場も無料で、展示作品は一つです。

アーノウト・ミック「異音」

アーノウト・ミック_3

アーノウト・ミック_1

アーノウト・ミック_2

ビデオインスタレーション作品です。

映像を複数のスクリーンに投影し、それを鑑賞するというもの。
この映像がとある大企業の社内行事の様子(本物の社内行事ではなく、俳優たちが演じています。)
を流しているのですが、だんだんそれが宗教の集会に変容していく様を流しています。

確かに私も就職活動時にたくさんの企業説明会に参加しましたが、
もはや企業とはひとつの宗教だと感じることが多々あり(実際に友人も同様のことを言っていたので、
少なからずそう感じる人はいるようです。)、まさに思っていたことを形にしてくれたような作品でした。

「日本」という国家もひとつの宗教みたいなものなのかもしれませんね。

この映像作品、音が一切ありません。無音です。
不思議なのは無音にも関わらず、私には声が聞こえるんですね。
映像の中の人が拍手をすると、私は拍手の音を聞いた気がしますし、
大声で歓声をあげている人を見ると、本当に私には歓声が聞こえる気がします。
しかも、私や観客の靴音や話し声よりもリアルに声が沸き起こってくるのです。
視覚でみた映像を脳が過去の経験をもとに声を再現しているのでしょうね。
日常の情報を脳がインプットするのは視覚が8割といいますが、
まさにこのことなのですね。

音のない視覚で認知した映像をもとに脳が呼び起こした記憶、経験の声と実際の靴音では、
はるかに脳が呼び起こした記憶の方がリアルだったのは、
文章では表せない物凄い体験でした。

個人的には映像そのものよりも、映像が引き起こしたこの体験の方が面白かったです。
ぜひ体験していただきたいです。無料ですしね。

アーノウト・ミック(Aernout Mik)(1962-)
オランダ生まれでアムステルダムを拠点に活動する芸術家。主にビデオインスタレーションがメイン。
過去に横浜トリエンナーレ、あいちトリエンナーレにも出展しています。
ただ映像を見せるだけではなく、観客が一体となって見れるような空間作りをしているので、
映像作家ではなく、ビデオインスタレーション作家のようです。

ちなみに河原町塩小路周辺の展示も見に行こうとしたのですが、
会場が見つけられませんでした。一体どこにあったんでしょう・・・。

◆参考◆
アーノウト・ミックインタビュー(本文では特に記述してませんが、
面白かったのでご紹介)
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フィオナ・タン「まなざしの詩学」

フィオナ・タン「まなざしの詩学」
国立国際美術館
会期:2014年12月20日(土)~2015年3月22日(日)

リフト

リフト

リフト

リフト

映像作家フィオナ・タンの展覧会を見てきました。
アーティストトークも聞けるということで10時から会場入りして整理券ゲットしました。
今回は事前にエッセイを読み、事前学習をもして望んできました。

今回の作品点数は14作品。
その中にはタンが学生時代に作成したデビュー作、
「興味深い時代を生きますように(May you Live In Interesting Times)」
「リフト」
「Raise and Fall」も含まれていました。

まず、会場について。
通常の展示よりも会場サイズは小さかったです。
美術館のB3階で展示していたのですが、
半分くらいの規模だったのではないでしょうか。
しかし、一時間近くある映像が3本もあるため、
全部見るのに5時間近くかかると思います。

トークショー中に主任研究員の中井さんが仰っていたのですが、
会場のレイアウトと各作品のタイトルをタンと一緒に工夫されたそうです。
まず、タイトルには通常、上映時間が何分か表記してありますが、
今回はそれがありません。
それは、時間を記載すると、出品作家が作品の見方を指定してしまうことになります。
鑑賞者が好きなときに好きな時間だけ見ることができるように
あえて表記していないそうです。
また、会場には映像が流れるいくつかの個室があるのですが、
その入り口を入りやすいようにレイアウトしているそうです。

やはり、作品を鑑賞する上で作品そのものも大事ですが、
作品の見せ方も重要だと感じさせられました。

さて、作品ですが、やはりデビュー作が一番面白かったです。
タンはインドネシア系中国人の父親、オーストラリア人の母親のもとにインドネシアで生まれ幼少期を過ごします。
しかし、反中国人暴動でオーストラリアに移住し、その後、ヨーロッパに移住します、
彼女の親戚のほとんどが中国人だそうで、(タン自身はハーフなので、顔だちは西洋寄りです。)
彼女は中国人なのか、それともそれ以外の何なのか、アイデンティティを探す旅に出ます。
そのドキュメンタリー作品です。
彼女は世界各地に住む親せき、そしてご自身のルーツである中国福建省のある村まで行きます。
しかし、結局ご自身のアイデンティティはわからず、自分のアイデンティティがわからないことがわかったといいます。

彼女は作品の中で、自分のアイデンティティは血で決まるのか、それもと育った場所で決まるのか、
と問いかけています。
彼女がインタビューした親戚の中には、血で決まるという人もいれば、育った場所で決まるという人もいます。
私は両親ともに日本人で日本で生まれ、日本で育ちましたが、
日本の中でも県民性とあるくらいなので規模は小さいですが、誰でも考えうるテーマなのではないでしょうか。

トークショーで最後に質問タイムがあったのですが、
ある方が、現在はご自身のアイデンティティを見つけることができたか質問していたのですが、
彼女はまだ見つけていないそうです。
しかし、今はそれは問題ではなく、彼女の関心は別のものに映っているようです。
(他の作品のテーマ「取り換え子」などを見ていると、記憶という別の側面で様々な人のアイデンティティを喚起させているように思えます。)

興味深い時代を生きますように(May You Live In Interesting Times)

興味深い時代を生きますように(May You Live In Interesting Times)

ナイアガラの滝と老婦人、若い女性のシンプルな日常生活を2枚のパネルを使用し、
老婦人の過去の回想をオマージュする作品「Roll and Fall」も期待して観に行ったのですが、
時間オーバーで全部見ることができませんでした。

Rise and Fall

Rise and Fall

アーティストトークではタンは非常に気さくな人で作品とのギャップがあり、面白かったです。

今回、「自己のアイデンティティとは何か」
を様々な局面から見せつけられ、考えさせられる作品でした。
少し内容が難しくて、今回だけでは消化できなかったので
また観に行きたいです。

◆参考◆
国立国際美術館
画像